第113章 夏の大三角(14)大会編
夏季弓道大会。
団体戦当日の朝。
予選より、明らかに大きな総合体育館を見て足が少し竦む。
個人戦を落とした私は今日、団体戦に挑む。今までの成果を少しでも発揮したい一心で、皆んなとお揃いのお守りを握りしめた。
「うっ……緊張で心臓潰れちゃいそう」
「何言ってんの!ウチらには頼れる副部長がいるんだから!ドーンと構えてないと!」
ゆっちゃんは明るい声で、支えてくれる。
「ただでさえ、落ちでプレッシャーかかるんだから、これ以上かけないでよね」
私達三人は胴着に着替え、円陣を組んで熱血スポ根みたいに気合いをいれる。
「大前、一本決める!」
「中は、任しといて!」
「落ちは、必ず!」
気合いは十分。
後は、あの張り詰めた雰囲気の中で、どれだけ精神力と実力を発揮出来るか。
男子の部は隣の会場で行われている為、決勝戦になるまでお互いの様子はわからないけど……
(きっと、あの三人なら大丈夫!)
幸がいる春日山高校は、直前でメンバーの一人が怪我して団体戦は予選で既に棄権したみたいで。でも明日の、個人戦は出場。噂では前に会った上杉謙信って人が、優勝候補に入ってるって情報通のゆっちゃんから聞いた。
(私も頑張るから、頑張ってね)
届けれない声を、
どんな形でも良いから届けたくて……
私はヘアピンをそっと撫でていつもの定位置に挿すと、
「第一試合はじめ!」
射場に立つ。
直径36センチの的に狙いを定めて矢を打つ。射場から的までの距離は28メートル、ど真ん中なんて中てるのは本当に至難の技。
でも、
今大会、女子は団体戦も個人戦もルールは同じ、一般的な「射詰(いづめ)」で勝敗が決まる。団体は三人で一人一回一手(矢を二本)の的中制。
(一本目の私が外す訳には絶対にいかない)
身だしなみ、所作も大切。
私は軽く息を吸い、長く吐いて……
弓を構えた。
パァーッン!!
的中制回数を競いながら、二試合目、三試合目……
私達は、決勝戦まで足を進めた。