第111章 『図書館青春』家康様side
放課後___
学校帰りに、市内にある図書館に立ち寄る。冬季の夕日は弱く、幻想的な赤みを帯びた光が館内を照らす。日没までの一時間ぐらいを目安に俺達は、早速目的に取り掛かった。
貸し出しカウンターから一番離れた、隅。普段から周りにひと気が少ない、その場所は俺の特等席。この時期、窓辺のそこは寒さが増し余計に誰も座らないから集中しやすい。
向かい合わせに腰掛けたひまりに、
「取り敢えず過去問やって」
「う、うん」
俺はそう言って、持って来た医学書を開く。シャーペンの芯が出る音を、微かに耳に挟み。
静かな時間が流れた。
僅かに開いた窓。
木枯らしが館内に入り込み、
そのせいで埃っぽさが増す。
(寒いし……)
横目でセーラー服姿のひまりを盗み見ると、袖を擦りながら窓を見て体を震わせていた。
栗色の髪がサラサラと流れ、人形みたいに長い睫毛も切なげに揺れる。
透き通った綺麗な肌。
まだあどけない可愛い顔立ちの中に、たまに見せる女の顔。
横顔見てるだけで、調子狂うし。
(本人無自覚だけど……)
それ以上見てると、目が離せなくなる。
俺は、再び本に目線を落とし……
暫くすると、前から視線を感じる。
「……何?わかんないの?」
瞼を持ち上げると、
ひまりとすぐに、目が合った。
一瞬で、騒がしくなる鼓動。
(その瞳、反則だし///)
何でもない!
ひまりは気まずそうに
笑って、テキストを再開。
沈黙、静けさ___
お互いの呼吸、息遣い___
パラリ……。
後は本を捲る音。
(つい、あんな条件出したけど)
肝心な部分は、あの様子だと伝わってない。どうせ、チョコじゃないから良いでしょ?とか言って。他のやつに、クッキーでも渡すつもりで……。
はぁーー……。
何時になったら、言えるんだろう。
俺にしかバレンタインは、渡すなって。
恨めしい気持ちでひまりを見ると、視界の端に消しゴムが飛んでいくのが映る。
……ドジ。
咄嗟に空いてる左手を
伸ばし、掴むと……
チョン。
ひまりの指先が
俺の手に当たった。