第111章 『図書館青春』家康様side
中学三年の二月上旬。
高校受験を目前に控えたある日。
模試の結果を持って、ノックもなし。息を切らしながら二件挟んだだけの幼馴染が、この世の終わりみたいな顔して押しかけて来た。
「お願いします!お願いーーっ!」
「ってか、今更。もう、二月だし」
部屋に飛び混んで来て早々、これ。
土下座でも何でもするから!そう言ってウサギみたいに涙目で、子鹿みたいにぷるぷる懇願するひまり。
バカみたいに可愛いし、つい甘やかしたくなるけど、つい不機嫌な態度を取る複雑な年頃の俺。
まぁ……
「明日の放課後!少しで良いから!」
結局、甘やかすけど。
……俺は。
「はぁ……。わかった」
但し、条件付き。
ちょこんと座るひまりにそう告げた。
「……今回は何?」
「バレンタインのチョコ」
俺は、即答。
「チョコ?いつもあげてるよ?」
ほんと鈍感。毎年普通にくれるのわかってて、わざわざそんな条件つけないし。不思議そうに首を傾げるひまりには、伝わらない男心。俺は深い溜息吐いて、
「他の男にあげるの禁止。今年は俺だけにして」
何で??
思いっきりそう顔に書いて、ますます首を深く傾げた。
「幸にもあげちゃダメって事?」
「勉強見て欲しいならね」
後ろ向きで椅子に座ったまま、
返事を急かす。
気に入らない。何で他の男=最初に幸村の名前が出てくるわけ。
どうすんの?
口には出さず、目でそう聞くとひまりは少し間があった後、コクリと頷いた。