第16章 卯の花月(4)
私は肩を落とし、保健室の出口に向かう。
すると、
「誰が出て良いと言った」
「へ?まだ何かありました?」
「肝心なサイズを、まだ測ってないからな」
肝心な?
私は眉を潜める。
明智先生にベットの上に座れと指示され、困惑しながらも大人しく従う。
何だろう?
他に測る所、あったかな?
今年から増えたのかと思って、特に疑うこともなくただジッと近付いてくる先生を見る。
「さて、何処から測ろうか……」
「……え!……ひゃっ///せ、先生!何で腰に手を回すんですか!!」
「お前、知らないのか?今年からスリーサイズ測定、必須だと」
えっ!?
スリーサイズ!?
何で!?
「大人しくしていろ」
混乱して固まる私の耳元に口を寄せる先生。体操服越しに、サイズを測るように腕を回され……
「細いな。……荒く動いたら、すぐに折れそうだ」
すぐ横に明智先生の顔。
危険な大人の声。
囁かれた耳からぞくぞくと電気が走ったみたいに、身動きが取れなくなる。
「荒く……って一体……」
「次は……ここだな」
スルスルと腰から這い上がってくる先生の手。
一瞬反応が遅れた私。
ん?スリーサイズって確か。
「わぁっ!!!///そこは絶対に駄目です!!」
やっと意味が解った私は、両手で胸元を守るように覆う。
「クックッ。お前、本当に苛めがいがある女だな」
喉を鳴らす先生を、キッと睨みつける。
そんな反応を見て先生は、更に満足そうにニヤリと笑みを浮かべた。
「光秀。生徒に手を出すのは止めろと、釘を刺した筈だ」
「織田先生!!」
私は急いでベットから立ち上がり、ドアに寄りかかる織田先生に駆け寄る。
「貴様がまだ戻らんと聞いてな」
様子を見にきてやった。
私の髪を指で掬い、フッと笑う織田先生。
教室に戻れと言われ、私は一礼してから保健室を出る。
「明智光秀」
「織田信長」
二人も戦国武将と同じ名前。
あの二人が運命の相手だったら、心臓なんてすぐに壊れちゃうかも。
「ねえ?今年からスリーサイズって、測らないといけないの?」
「何言ってんの!そんな訳ないじゃん!」
……騙された。
当分の間、保健室には近づかないでおこう。
そう、私は固く決心した。