第110章 『図書館青春』
そして、また沈黙。
(う〜ん。……この公式じゃないとすると……)
難題に差し掛かり、頭を悩ませシャーペンをクルクル回した後、先を唇にあてる。
暫く頭を左右にゆっくり傾け、
「家康……ココなんだけど…」
クイクイと腕の袖を摘み、遠慮がちに聞いてみる。
「……はぁ。ソレ、前も教えた」
溜息を吐く家康。
何回教えたら頭の中に入るわけ?
「だ、だって苦手なんだもん!」
「はいはい。……なら、こっち来て」
家康は自分の隣の椅子を引く。
私はテキストと
シャーペンだけ持って移動すると、
「……ばか。ここは、無駄に難しく考えなくていいから。……この場合、ゼロになる解の公式で……」
ブツブツ文句言いながらでも、
ちゃんと教えてくれる。
ほら、ペン貸して。
私のお気に入りのハート柄を渡すと、スラスラと公式をテキストに書き込んで……
(綺麗な字。書道習ってないはずなのに)
チラッと隣に視線を向けると、
コツンッ。
「ちゃんと聞いてんの?」
「き、聞いてるよ!……でも、出来たらもう一回最初から……」
小突かれた頭をさすりながらお願いすると、明かさらまに不機嫌な顔をする家康。
「は?……次、ボッーとしてたら帰るよ」
「ちゃんと聞いてるよ!ただ、そ、の……字が綺麗だなぁ〜って」
「……誤魔化す気?」
折角、褒めてるのに。
でも、教えてくれてるのにちゃんと集中しないと!今度ヘソ曲げられたら、大変!
私は音を鳴らさないように椅子を動かし、家康の肩ギリギリまで近づく。
これなら、見やすいし!
集中出来る!
と、思ったのに。
「ひまり……」
耳元に降りて来た声に、
思わずビクッと肩が揺れる。
「何、赤くなってんの?」
「な、なんでも……っ///」
「自分で近いといて……」
「い、いきなり///家康が耳元で喋るから」
さっきまで冷たかった耳が一気に熱くなる。私はもう一度だけ解き方を聞き、集中力を最大限に出して問題を頭に詰め込む。