第15章 卯の花月(3)
「徳川家康」
表示された名前。
かの有名な戦国武将と一緒の名前。
(そう言えば、私の運命の人。一体誰なんだろう?)
毎日、手紙は持ち歩いてる。
何か解るかもしれないと思って。
六人の中に、本当にいるのかな?
謎の大学生。
あれからまだ一度も会っていない。
(佐助君に今度会ったら、聞かないとね!)
散々焦らした後、ようやく電話に出る私。
「……今度、意地悪したら掛けないからね!」
「だめ。毎朝、ちゃんと掛けて」
「ってか、絶対起きてたでしょ!出るのすっごく早かったよっ」
「俺の寝起きの良さ、舐めないでくれる?」
電話越しの言い合い。
時計を見て私は慌てて、携帯をスピーカーにして着替えを始める。
「……さっきから、ゴソゴソ何してんの?」
「制服に着替えてるだけだよ?」
「………っ///」
急に黙り込む家康。
私は制服のブラウスを掴み、だって急がないと間に合わないし。そう言いながら袖を通す。
「ねぇ。……今、何着てんの?」
「えっ?ブラウスのボタンはめる所だけど?」
「何番目?」
「???えっと、上から二、三番目?
……もう!数えてたら胸の所、掛け間違えてっ」
私はもう一度下からはめ直す。
すると今度は電話の向こうから、物音が聞こえてきて……
家康も、やっと着替える気になったのかな?
「よし!準備完了!じゃぁ、電話切るよ」
「……ひまり、俺……遅れるかも」
準備早いって言ってたのに?
私はとりあえず、五分ぐらいなら待っているからと伝えて電話を切った。
「おはよう!間に合ったんだね!」
ぎりぎり五分遅れて玄関から出て来た家康。
「お年頃の力、舐めないでよ」
何故か、気まずそうに視線を逸らす家康。何で遅れたのか何度聞いても、理由は教えてくれなくて。
通学中、鈍感とかばかとか言う回数が、いつもより多かった気がした。
「後、おやすみコールも追加」
「寝る前に?私、お風呂入ったらすぐ寝る派なんだけど」
「だから、お願いしてんの」
楽しみにしてる。
青空をバックに、笑う家康。
そんな顔されたら断れないよ。
目だけは心なしか、意地悪そうに見えるけど。
でも、電話越しの家康の声。
ーーおはよ。
実は、ちょっとだけ私もハマりそうかも。なんて……内緒だけど。