第105章 夏の大三角(13)
家康は視線を逸らして、
しゃがみ込んだまま、
片手で頬杖をつく。
そして、燃え尽きた線香花火のこよりをクルクル回しながら……
「昔すぎて忘れた。ただ……」
初恋が本気に変わっただけ。
相手は変わってない。
初恋と本気の違いは……?
そう聞こうとした時。
「家康先輩。ちょっと、お時間よろしいですか?」
三成くんが背後から現れて、家康は重たい腰を上げるように立ち上がる。
二人の背中が消えていくのを
漠然とした思いで見つめて……
いつの間にか
ゆっちゃんが側に居て……
線香花火の「牡丹」
はじまりの火花。
(どうしよう………)
「わっ!ひまり!!」
自分のパーカーが地面に落ちる。
「ドキドキして苦しい」
家康の言葉で、
一気に開いたタイムカプセル。
それが、火種になって……
私の心は線香花火のように……
ーーこっちの黄色がひまりちゃん。
私がピンクの方みたい。
広がりはじめた。
黄色いパーカー。
家康の好きな色。
でも、私が好きな色は
ピンク色だった。
「何で、今頃……。涙なんか…」
大切な幼馴染。
その言葉も、
黄色でも、十分嬉しかったあの頃。
ゆっちゃんは急に泣き出す私を、
何にも聞かずに、
優しく宥めてくれて……
「忠告すんの、遅かったかな」
星空に向かって、そう呟いた。
私はここから
自分の気持ちに向き合う。
だからこそ、余計に
大きく揺れたのかもしれない。
バスに乗る前に見えた、
『夏の大三角』
私は夏の間に、
何度この夜空を見上げるのかな。