第105章 夏の大三角(13)
パチッ、パチッ……
「そう言えば、この前。織田先生に線香花火は江戸時代から盛んだったって、教えて貰って……」
私は頭を少し下げて火の蕾「牡丹」を見ながら、静かに喋る。すると、俺を連想したとか言わないでよ。って先読みされて……。
「ふふっ。だって、江戸時代って言えば徳川家康でしょ?偉大な人と、同じ名前なんて。私だったら嬉しいけどなぁ〜」
「……俺は別に普通だし」
「江戸幕府作り上げた人だよ?」
歴史苦手な私でも、その偉大さは理解している。ずっと続いた戦国時代を終わらせ、平和な世を築き上げるなんて普通の人じゃ出来ないよ。
「きっと、優しくて素敵な人」
だったんだろうね。
バチバチ……バチッ……
激しく音を立て、火花が飛び出す。
細い金色の筋が広がっていく。
すると、
軽く息を吸い、
家康は重たい口を開くみたいに……
「……側に居たんじゃない」
こんな風に
激しく求めて……
スッと目線の高さまで、
「松葉」を持ち上げて……
「愛し合える人」
だから、平和な世を求めた。
火花が穏やかな「柳」に変わった時。
チリッ…チリッ……
家康の強い光が、間近に見えて。
「俺もいるから……」
ぶら下がった、
二つの「散菊」が……
混じり合って、一つになる。
「やばいぐらい、求めて……」
愛したい女の子が。
『ある戦国武将は、
貴方を求めて止まらない』
差出人不明の手紙。
線香花火の最後。
見届けれないまま。
無くなっていて……
地面に落ちたのか、
溶けて消えたのか、
わかんない。
「家康の初恋。いつだった……?」
声が震える。
胸が震える。