第102章 前章あとがき
(家康様視点)
背中の温もりがフッと消え、
ありがと。少し赤くなった瞳。
それを一瞬だけ見せて、俺の濡れたTシャツを渡すと建物の中に入っていくひまり。それを見送った後、俺は外でもう一度Tシャツを固く絞って、肩の上に乗せた。
幼馴染、卒業させて。
卒業式に、そう言うつもりだった。
一人の男として、見て欲しくて。
結局……
ーー家康は私の大切な幼馴染だから!
ありがとう!大事にするね!
第二ボタンなんて普通の女子なら、違う意味で欲しがるんだろうけど。ひまりはただの思い出として。
特に深い意味もなく。
純粋な気持ちと無邪気な笑顔を、
俺に向けて……
ボタンを握りしめるから……
言えなかったし。
泣くのわかってたから。
ズルズルと続けて、
その立場を利用して、
中学最後の俺は「大切な幼馴染」のまま、高校生になった。
(あん時の俺は、まだ踏み出せなかった)
でも、今は違う。
ひまりの中の幼馴染を、
「大切な幼馴染」から、
「大切な人」に、
一人の男に変えて貰わないと。
玄関先の石段に座り、
足の上に片肘を付いて、
地面に視線を落とす。
ーーも、うちょっと、だけ。……待って、くれる?
そう言ったひまりの中の卒業が、
どっちの意味なのか考えた。
不安と期待がちょうど半分。
(運命なんて、俺は気にしない)
ひまりが、
一人の男として、求めてくれたら。
一歩先をわざと歩く俺に
追いついてくれたら。
その時にやっと、俺の中で
「大切な女の子」から、
「大切にする女」に、変わる。
今、以上の存在に。
俺は柄にもなく夜空に浮かぶ
夏の大三角を見つけ……
軽いような、重いような、
今の俺みたいに中途半端な
息を吐いた。
巡り合わせの運命。
そんなのあっても、なくても、
それを理由になんかしたくない。
だから、俺は……。
まぁ。ヒントだけは
ちゃっかり残したから、
偉そうには言えないけど。
三本の線を結ぶ三つの点。
一際輝く星は?
一体誰を?
どの三人を……意味しているのか。