第102章 前章あとがき
「やっぱ、何もない。ってまた、言うの?」
「言ったら、多分ひまりが戸惑うから」
「戸惑うような内容なの?」
普段ならこんなに質問返しする事は、滅多にない。家康もそれに気づいて、珍しくしつこいし。って、ボソッと呟いたのを私は聞いて……
「なんかね。あの時の家康に逢いたくなっちゃって」
「何ソレ。逢える訳ないし」
「それは、わかってるけど。あの時の気持ちが知りたくなったの」
「……忘れた」
「また、そうやって……」
嘘つき。
すぐ、誤魔化すんだから。
首に回していた腕。
私は家康が苦しくないように、
力加減しながら、ぎゅっと引き寄せた。
「泣かない?」
「泣くようなことなの?」
「ひまりなら、違う意味で受け取って泣きそうだから」
そんなの言われたら、
余計に気になっちゃうよ。
それでも聞く?そう尋ねられて……
暫く考えた後、家康の頭に顔を寄せコクッと頷く。
すると、
家康は歩くのを止めて……
星空を見上げた。
「卒業したら……」
幼馴染、卒業させて。
そう言いたかった。
家康の予想どおり、
私の瞳が涙で滲み……
「だから、言いたくなかった」
違う。
この涙は……
ーーひまりちゃん。私の方にはね!!
「大切な女の子」
ーーえっと!私の方は……
「大切な幼馴染」
タイムカプセルが半分だけ開く。
「ひっ……く。卒業…する、の?」
「しないよ。泣かれるぐらいならね」
でも卒業したら、
私も大切な女の子になれる……?
まだ、それは聞いちゃいけない気がして飲み込んだ。
口に入り込んだ涙の味で、
苺のポッキーの味を思い出した。
ーー幼馴染じゃなくて、一人の男として。
家康が卒業したい、理由は……。
「ひまり……」
「も、うちょっと、だけ。……待って、くれる?」
この涙が
何で甘酸っぱく感じるのか……
この気持ちが
悲しいだけじゃなくて、
違う感情も含まれている気がするから。
今はまだ「大切な幼馴染」でいさせて。