第13章 卯の花月(1)
なのに……
何でこんな事に?
「三成君……私、チラシを配りたいんだけど」
「ひまり先輩は、私の案内係ですから」
「だから、案内してる途中なんだけど?」
私の手からチラシを奪いそれを片腕に抱え、ニコニコと笑う三成君。道場まで案内しようと、歩き出したまでは良かったんだけど……
途中、隣にある体育館の裏で三成君は何故か足を止めた。
「ちょっと、先輩とお話したくて……いけませんか?」
「お話って電話でも良くしてるし、後からでも……」
良くない?
そう言うと、三成君は首を軽く横に振り、私の手を掴む。
「今、したいんです。先輩の胴着姿を見ていたら我慢出来なくて」
「へ?胴着?」
「はい。その背中の曲線美……後、その袴からちらりと覗く下帯が」
可愛くて。
耳元を掠める声。
いつもの落ち着いた声と、少し違って……
思わず一歩後ろに下がる。
でも、三成君は掴んだままの私の手をぎゅっと握り……
「下帯が可愛い?」
普通の帯なのに?
「はい。桃色で先輩に良く似合っています。どんな風に結んであるのか、見せて貰って良いですか?」
「へ?見せる……って、どう……ちょ、ちょっと三成君!」
三成君は掴んでいた私の手を離し、今度は履いている袴に……
手を伸ばす、
……寸前。
チラシがバラバラと地面に、落ちる。
「……んな事したら、弓道部入る前に」
弦が持てない腕になるけど?
地面に落ちたチラシ。
てっきり、三成君が持っていた物だと思ったけど……
どうやら違ったみたい。