第99章 夏の大三角(8)肝試し編
南無阿弥陀仏……南無……
「バキッバキッ……」
いつの間にか辿り着いていた、墓地の一番奥。勇気を出して、立ち止まった家康の肩越しに前を除く。
二、三メートル先に、大きな暮石。
偉大な人のお墓なのか、一際立派で風化していてもしっかりと形は残っている。
「バキッバキッ!……くちゃり…カラッ」
お経の正体は暮石近くに置かれたラジオ。なら、この噛み砕くような音は一体……。
「い、えやす……この音…」
「……骨でも食べてるみたいだね」
「ほ、骨!!」
「……冗談」
家康は怖がる私をそっと片腕の中に引き寄せ、
「怖いかもしれないけど、我慢して」
家康は暮石の真ん中に貼られた紙を、指差す。
『札は自らの手で取れ』
達筆な字。
黒板に書かれた織田先生と同じ字。
「多分。鬼がどっかで見張ってるから」
まさか……。
「き、急に出てきたり……」
「……するかもね」
無理だよ!!ガクガク震えだす足。
私はぎゅっと家康の腰に手を回してぴったりと身を寄せる。
「……ひまりを置いて逃げたりしないから、安心して」
「う、うん」
「ここに幽霊なんかいない。居るのは鬼だから」
幽霊と織田先生。
今の私には同じぐらい怖い。
一歩、
一歩、
家康の歩調に合わせて
暮石に
近づく。
ガタガタガタガタガタッ……。
近くにある小屋が揺れて、
中から……
「出してぇ……くれぇ……」
「あ、あつ……いぃ……」
「……苦し……い……」
呻き声。
「家康!も、もう無理だよぉ……」
いつの間にか、私の目と顔は涙でぐちゃぐちゃ。
「……バキッ!……こ、れは…美味い……な」
暮石の前、
間近に迫る声。
「……取るよ」
家康は私の震える手に自分の手を重ねる。
たてられた御線香の煙が
ツンと涙を余計に誘い……
(は、早く取らなきゃ……っ)
スッと暮石の真ん中に剥き出しに置かれた木札に、手が触れた瞬間……
「いやぁぁああ!キャァァァア!」
私の悲鳴が山に響き……
「うぅぅぅ………」
小屋の扉が壊れ……
もう気絶寸前まで追い込まれた。