第99章 夏の大三角(8)肝試し編
南無阿弥陀仏……。
お経のサウンドが辺りに流れ……
うそ……。
な、何かた、喰べてない……?
「バキッバキッ……クチャリ…」
家康は視線を音に向け、足元に転がった懐中電灯を掴むと……行くよ。そう合図するかのように、繋いだ手を引っ張った。
(うぅ……もう心、折れちゃいそうだよ)
家康が言いかけた言葉も気になるし。
熱くなった胸を押さえながら、私の視界を遮るように、前を歩く背中を見つめる。
歩きにくい筈なのに、
庇うようにして一歩前に出て、私をグイグイと引っ張りながら進んで行く家康。
何かあった時、あえて見ないように。
下手に先を見ながら歩けば恐怖心で足が止まったり、竦んだりして動けなくなったりしないように……塞いでくれてるのがわかる。
強引だけど、それでも握られた手からは優しさが伝わって……
(こういう所。ほんと、昔から変わらないな……)
幼稚園の頃は、ここまで捻くれてなかったけどね。変わったのは、小学校に入ってからかな?学年が上がるごとに、意地悪度が増して……
(でも、ちゃんと優しかった)
言葉は、意地悪で正反対。
態度はわかりにくくて、遠回し。
態度と言葉が違ったりして……
なかなか伝わり難いけど。
その分、後から本当の家康の優しさに気づいた時は、あったかくて、嬉しくて……。
だから私は……。
ーーひまりちゃん知ってる?あのね……………………。
ズキッ……。
突如、思い出した記憶。
痛みが走った気がして、
胸に手を添えた時だった。