第99章 夏の大三角(8)肝試し編
「家康と先輩がペアを組んでたって、三成くんから聞いた時……」
何か、もやもやしちゃって。
変だよね!ほんと!
ひまりは、から元気な声と俯いていた顔を上げ、今度は横に向けながら喋り……
「副部長がまだ家康のこと好きで。今頃、いっぱいくっ付いたりしてるのかな……とか、一瞬考えちゃって」
そしたら……。
ひまりは、まるでそれ以上の言葉は出してはいけないような気がして、下唇を噛んでのみこんだ。
「もう!私ったら。怖すぎて、頭おかしくなっちゃったのかな?早く、行かないといけな……っ……」
ひまりの言葉を遮ったのは……
「何で、そんな簡単に……」
俺の心……乱してくんの。
家康はきつく腕を回す。
懐中電灯の明かり。
山奥に一直線に向けられていた光が、今度は足元の草を照らす。けれど、二人はお互いの顔がしっかりと見えるぐらいの距離まで近づいていて……
「……ほんと。俺のがおかしくなりそう」
嬉しすぎて。
家康は少し身体に隙間を空けると、絡ませるように繋いだ手を口元に運んだ。
大事な宝物に触れるかのように、そっと……自分の唇にあてる。
ひまりは、瞳を大きく開かせ……
(今すぐ、ひまりに言いたい)
どれだけ、好きか。
(胸が苦しい…………)
でも同じぐらい、胸が熱い……。
二人の感情が動いた。
ひまりは瞬きも忘れ、
家康の瞳を覗き込み……
「ひまり。…俺……っ…」
甘い雰囲気と自分を見上げるひまりの表情が、胸を焦がし……
必死に止めていた想い。
伝えるのを耐えていた想い。
家康の秘めた想いが、
溢れそうになった時だ。
「南無阿弥陀仏南無阿弥……」
何処からともなく流れてきた、お経。
そして
「……クチャリ……バキッバキッ…」
何かを鋭い歯が噛み砕く……
怪しげな……
妖しげな……
音が奥の暗闇から響き、
やたらと二人の耳に届いた。