第98章 夏の大三角(7)肝試し編
風化して、荒れてしまった墓地。
もう何百年の時が
刻まれたような、風景。
ひんやりと冷たい空気に、
息がつまり。
(人魂!……っ)
空中に、青い光が揺らめき。
私は、三成くんの服の裾をぎゅっと掴む。もう瞳から涙がポロポロ溢れ、膝がガクガクと笑いだすように震え……
ぼやけた目の前の視界に、
「クッ、クッ……」
喉を転がすような笑い声。
声の主は明智先生なのに……。
姿は、白装束に狐の面。
よく見る、白地に赤や金の線で目や鼻が描かれたもの。
しかも、
何をするわけでもなくただじっと……
私達を見ているだけ。
それが逆に怖い。
「せ、せん…せい、だよね……?」
恐怖の色を浮かべた声が、
自分の口から出る。
シュシュ……シュシュッ……
ザワザワザワ……。
まるで私の問いかけに木々が返事をするように音を鳴らして、大きく揺れ始め……
その異様な雰囲気にゾクゾクと背中に冷やっとしたモノが流れ、顔がピクピクと引き攣った。
すると三成くんが私から離れ、
スッと二、三歩歩き……
「明智先生。お面など付けていたら、折角のお顔が台無しですよ?」
そっと、先生のお面を取った瞬間。
「いやぁぁあああああ!!」
一気にコマ送りみたいに
色んな事が起こった。
もう二度と立てないぐらい私は腰を抜かし、パニックを遥かに越えてしまった頭を抱え込む。
狐の面の下に現れた素顔。目も鼻も口も全てのパーツがない、のっぺらぼうの明智先生が……
「……遊んでやる」
じりじりと近づいて来て……
ジャリ……
背後から聞こえた足音。
青い光がフッと跡形もなく消え……
ただの暗闇だけが私に襲いかかる。
(に、逃げなきゃ……っ!)
「ひまり先輩!」
ダッダタ……!
すぐ近くで誰かが走り去る足音。
そして、
グイッ!
座り込んでいた私の身体が
無理矢理、立たされ……
腕を引っ張られる。
真っ暗な視界。
右左もわからない。
来た道に戻っているのか、それとも奥に向かっているのか……。
涙が風を切りながら、ハラハラと後ろに流れていく。