第98章 夏の大三角(7)肝試し編
吊り橋効果を
必死に止めにきた一つの影。
橋の入り口から懐中電灯で目先の光景を照らし、月明かりの力も借りた事により、見えた二人の姿。
(させないし……っ!)
家康は懐中電灯の電源を切り、今まさに二人が一つに重なろうとする寸前。
橋に飛び乗り二本の手すり網を掴むと、身体全身を使い大きく揺らした。
そんな家康の意外な姿を、後ろから追いかけてきた副部長の目が捉える。ひまり以外の前では、至って無口でクール。そんな男が明からさまに嫉妬心を剥き出しにして、取り乱していることに驚きを隠せないでいた。
よっぽど好きなのね。
やれやれと息を吐き、一瞬手伝おうか悩んだがぼろぼろの橋を見て、成り行きを見守る事にする。
「きやぁぁぁぁーーっ!」
家康は暗闇で目を凝らし、小さな影だけが向こう側に着いたのを確認すると、より一層力を加え橋を揺らす。
「うわぁぁぁぁぁ!」
橋の手前から三分の一ぐらい先。
ゆらゆらとオレンジ色の光が河に落ちていくのを、うすら目で見届けた。
(これで……)
条件は整った。
口角を軽く引き上げ、三成の雄叫びを暫く聞き続けた後……
一旦元の場所に戻り、
「先にどうぞ」
「あら?案外、私にも優しい所あるじゃない!」
「今、協力者が落ちると、俺が困るから」
「あっそ……」
家康は淡い乙女の期待も、いとも簡単に砕く。
いくら気が強くても、
流石にこの橋は怖い。
しかし、今ので僅かに甘える隙も与えて貰えなのを痛感。副部長は、持ち前の強い精神力と……
「……そこの板。外れてるから」
一応協力者として
最低限の気配りはして貰い、橋を渡り切った。