第98章 夏の大三角(7)肝試し編
震えた小さな背中。
それが暗闇に消え、見えなくなると……
懐中電灯の明かりは次に、腕時計を照らす。カツカツ……耳を澄まして聞こえるか聞こえないかぐらいの時を刻む音。家康は、秒数の針を瞬きする暇さえないぐらい見つめた後……
その針が十二を指すのを確認し、スッと視線を暗闇に戻す。
「……先。歩くから、適当に」
「へ?……ちょっと待ちなさいよ!」
主語と述語がどれかわからないような言葉に戸惑い、副部長は慌てて家康の背中を追いかけた。
山道に踏み込んだ途端。
聴こえたひまりの悲鳴。
木にとまっていた鳥が、それに反応してバサバサと羽を広げ星空に向かって飛び立つ。
(ひまり!早くしないと!)
三成に……っ!!
距離をある程度、置いておく必要性を頭では理解しながらも、身体は言うことを聞かず脚は自然と早まる。
ーー三成君……怖いよぉ。
ーー先輩。もっとくっ付いて下さい。隙間なんかいりませんので。
(無理!無理無理!)
得意?の脳内妄想が嫌でも始まり、すっかり大事なことを忘れ猛スピードで長い手足を動かす家康。それを、副部長は慌てて小走りで前に回ると、両手で遮った。
「少しは私の気持ちぐらい。……考えなさいよ」
「生憎、真っ直ぐなんで」
突き刺すような台詞。
「天邪鬼の癖に、よく言うわね」
副部長は前を塞いでた両手を肩まで上げ、軽く頭を振る。
まぁ、そこに惹かれたんだけどね。
それは心の中の呟きで押さえた。
家康の視線の先は、一点。
それを見つめる横顔を更に横から見て、芽生えた恋心。一度でも自分に向けて欲しい。そう願わずにはいられない乙女心。