第98章 夏の大三角(7)肝試し編
(そう言えば、家康は……?)
ふと気になって、三成くんに聞いてみる。すると、先を急ぐようにズンズン動かしていた脚がピタリと止まり、
「気になりますか?」
くるりと私の方に振り向いた。
「え?う、うん。ちょっとね?」
脅かし役なんてしなさそうだし。
女の子と組むとかもなさそうだし……
って、思ったんだけど
「……副部長と組まれていたみたいですよ?」
違ったみたい。
副部長と……?
「それより早く先へ急ぎましょう」
「う、うん」
霧ががかった辺り一面。
私の中にもやもやした霧が浮かび上がった気がした。
しばらく歩き続けると、
『恐怖の吊り橋を渡れ』
そう指示が書いた紙が、橋の入り口に貼られている。
「また、コレは……想像以上にぼろぼろの橋ですね」
「も、もしかしてここ渡るの?」
「でないと墓地には、辿り着けないようです」
三成くんは懐中電灯を傾け、橋を手前から奥へとゆっくり照らす。
木の板が所々歯抜けになり、朽ち果てたぼろぼろになった足下の木板。橋の幅は一人分しかなくて一列に進まないと、渡れないみたい。
(普通に渡るだけでも、怖いのに…っ)
下に流れる河。
落ちたらどうしようという恐怖と、もし前とか後ろから……
そう考えただけでも足が竦んで、動けなくなる私とは違い、三成くんは不思議と明るい声で、
「ひまり先輩!まさに吊り橋効果です!さぁ、私が後ろから守りますので!」
「ま、待って!まだ、心の準備が……っ!わぁっ!」
突然背後から腰に手を回され、ふわっと一瞬だけ身体が浮く。
トンと足が木板の上に降ろされ、背中にぴったりと三成くんの温もりが……。
「必ずお守りします。安心して下さい」
「う、うん///が、頑張るね!」
「少しでも怖くないよう、何か話しながら行きましょう」
息遣いが聞こえるぐらい近くから聞こえた声。今度は違う意味でドキドキしてくる。
でも、前方に視線を向けると……
(先が全然見えない……っ)
長いトンネルの中みたいに、
ゴールの見えない一本道。
再び、恐怖が襲う中。
震える足を何とか動かして、
一歩、一歩踏み外さないように気をつけながら、進み始めた。