第98章 夏の大三角(7)肝試し編
霧ががる山道。
静まり返った森林の中から、昼間は囀りのように聞こえた鳥の鳴き声が、今はもう怖くて堪らなかった。
早く終わって。
早く着いて。
お願いします!
私は祈りながら、ショートパンツから剥き出しになった脚に草が掠る度。
軽く飛び跳ね、短い悲鳴をあげる。
幽霊なんていない!
頭でそう必死に言い聞かして、三成くんの背中だけを見て歩いていた時だった。
ピチャッ……。
「きやああああ!!」
ぬちゃりとした冷たいモノ。
それが頬にへばり付き、背筋にゾクリと悪寒が走った瞬間……叫びながら、その場に腰を抜かす。
ザザザザッ……!!
そのまま後ろにずり去り、
「やぁぁ!!もう無理むりむりむりっ〜〜!」
「ひまり先輩!!落ち着いて下さい!!」
もうパニック。
「ペタって!ペタって!いやぁぁ!」
三成くんが差し出してくれた手さえ振り払ってしまい、泣きながら腕を振り回す。
「ほ、ほらよく見て下さい!こんにゃくですよ」
三成くんが懐中電灯で頭上を照らす。
すると、
ぶらーんっ。
釣竿に吊るされた四角いモノが、
何個も重なりゆらゆらと揺れ……
「くっ!くっ……お前の反応。一番良いな」
釣竿を片手にお腹を抱えた政宗が、茂みから現れて……。
「そんなに怖かったか」
「うっ……政宗のばかばかっ!」
目の前で屈み込んだ政宗。安心するのと同時に八つ当たりのように胸をポカポカ叩くと、悪かったよ。と言って私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「どうやら、次のペアが来たみたいだな」
「……先輩。急ぎましょう」
三成くんに差し出された手を、今度は振り払ったりせずに手を重ねる。ガサガサと音を立て政宗は、茂みに戻っていく。
(次のペア??)
今更だけど、スタート前からずっと怖くて、誰が誰とペアを組んだのか私は知らない。