第97章 夏の大三角(6)肝試し編
気づいたら無意識にひまりへの想いを込めている自分。けど、そんな事本人に言える訳ないし、今んとこ気付かれたのは副部長だけだしね。
俺は、しばらく間を開けた後。
「……真っ直ぐに飛んでくように、イメージしてる」
「真っ直ぐ?それは、私も一緒だよ?」
「……多分。ひまりが言ってる真っ直ぐと俺の真っ直ぐは違う」
俺はそっとひまりの腰元に手を据え……
「何でも良いから。何か思い浮かべながら、打ってみなよ」
「う、ん……わかった!やってみる」
ひまりは素直に頷くと矢をつがえ、まっすぐ姿勢を正す。
片脚をスッと出し、息をすぅと吸い込み、前を見据えた。
その瞬間、
普段の姿と打って変わり……
ひまりの表情と視線の先に、色が浮かぶ。
(……一体、何を思い浮かべて)
綺麗。
ただ、その一言。
そして矢を放つ前の僅かな間。
ふっ……
ひまりは、微笑んだ。
間近に見ていた俺はその姿にやばいくらいに心を持ってかれ、ポカーンと口が開くのを自覚しながら、弦音と一緒に弾けそうになった。
的に矢を中てたひまり。
嬉しそうに俺を見上げ、
「やったぁ!!ありがとう、家康!」
矢取りに行くと言って、弓を預ける。
「家康のフォーム思い浮かべながら、打ったんだよ!」
流石、弓道部エース真似すると効果絶大だね!
俺が矢を放つ寸前。
無意識に笑うとこ……
ちゃんと気付いてるとか。
ほんと、止めてくれる?
心臓に悪いし。