第97章 夏の大三角(6)肝試し編
ゴールした瞬間。
脱力したのように倒れる二人を見て、私はいそいそと白いタオル二枚と、到着した時に配分された自分のスポーツドリンクを取りに向かった
そして庭に戻ると、三成くんに突然、肝試しのペアに誘われ……
一瞬、どうして急にそんなこと??
って、疑問に。
でも、一刻も早く家康にドリンク渡してあげたくて、考えるのは二の次に。特に断る理由もない私は、お誘いを受けた。
「ふふっ。頑張っている姿、格好良かったよ?」
冗談混じりに笑いながら、雑巾掛けで、更にピカピカになった廊下に腰を下ろし手を動かす。
「……ばーか」
家康の長い睫毛が揺れる。
額から雨が降ったみたいに流れる、汗の結晶にタオルを置き、上気した頬を中心にキンキンに冷えたペットボトルをあてる。
「気持ち良い?」
「う……ん。かなり」
「その割に眉間にシワ、寄ってるよ?」
反対の手でそのシワにタオルをチョンチョンとすると、
「……肝試し。あんまり怖がんないでよ」
へ??
タオルを持っていた方の手。
急に掴まれて、閉じていた家康の瞳が……
スッと私を見る。
「明日は絶対、勝つから」
その声と、織田先生の休憩時間の終わりを告げる声が重なる。
私の腕を離しむくりと起き上がる、家康。
明日は勝つ……
何を?誰に?何の為に?
頭に浮かぶのは疑問ばかり。
でも、掴まれていた腕が熱くて何かが胸の中でストンと落ち……
じわじわと広がり始め……
少しの間、私は動けずにいた。
何かを掻き立てるように、より一層大きく鳴き出した蝉の声。冷えていたはずのペットボトルは、家康の熱を沢山吸って……ぬるくなりまるで汗をかくように、水滴を垂らす。
ひまり行くよ。
ゆっちゃんに声を掛けられるまで、ペットボトルを握りしめていた。