第96章 夏の大三角(5)
「ひまり先輩。今夜の肝試しですが、一緒に回って頂けますか?」
受け取ったタオルで額の汗を拭い、疲労がまるで消し飛んだかのように、爽やかな笑顔を見せ申し込む、勝者三成。
「肝だし?あっ!そっかぁ……今夜、早速あるんだった……でも、私なんかで良いの??」
怖がりなひまりは肩をシュンと落とした後、口元に人差し指をあてた。
そして三成を見上げる。
自分なんかで良いのかと。
「はい。ぜひ、お願いします」
フワフワのタオルで頬を包み、天使に引けを取らない笑顔を浮かべる三成につられ、ひまりも陽だまりのような微笑みを返した。
(っとに。少しは悩むとか出来ないわけ?)
淡い期待も消え、
完全に八つ当たり。
しかし、
動揺して一瞬の隙を突かれた自分が、何よりも家康は許せなかった。
ーー昨日、キスしたと言ったらどうします?
まんまと、
三成の策に嵌められたのだった。
(はぁ……最悪)
しかし 、
手の隙間から入り込んでいた光が突然消え。
薄く開いた視界。
影の正体を確かめようと……
家康が腕を下ろした時……
「お疲れ様!!」
白くてふわふわした物がパサリと頭に乗り、青空を背負いながら太陽みたいに眩しい姿のひまりが、そこに居た。
「大丈夫??」
「……っ!!」
三成には渡さなかった……
一本の冷えたスポーツドリンク。
「ふふっ。頑張ってる姿、格好良かったよ??」
「……ばーか」
ひまりはそれで、気持ち良さそうに目を閉じる家康の頬を冷やしながら、その場に座り込んだ。
その光景を庭から見ていた三成は、思わず目を背ける。
騒つく胸を押さえ、白いタオルの差し出した時のひまりの笑顔を……
脳裏に焼き付けた。