第96章 夏の大三角(5)
盛り上がりを見せた、
雑巾掛け対決。
筋肉がピクピクと痙攣し、その場に座り込んだままの男子部員。足がつり部員仲間に支えられながら、姿を消す者。
信長は顔を歪ませ渋々、休憩時間を与える事にした。
そして一番ダメージを受けたのは、接戦を繰り広げた二人だ。ゴールした場からピクリとも動けず……
暫くお互いの息遣いを聞いていた。
「ハッ……ハァッ……」
「ハァッ……き、決まりましたね」
三成は最後の力を使い足を奮い立たせフラフラと立ち上がり、途中何度も躓きながら庭に降りていく……
家康は仰向きに転がり乱れた呼吸を、何とか元に戻そうと、体内に無理矢理酸素を取り込む。肩を揺らし、眩しい光を塞ぎ目元の上に腕を乗せた……
瞬間だ。
ドンッ!
(く、……そっ……)
余力など残っていないもう片方の腕を、思い切り床に叩きつけた。怒り、苛立ち、同時に疲労が一気に押し寄せ……瞼を刺激するように指の隙間から、光が射し込んでくる。
視界を塞いだ本当の理由。
「三成くんお疲れ様!凄い頑張ってたね!はい!タオル!」
自分に向けられていないその声が嫌でも届き、耳も塞いでおけば良かったと、家康はつくづく後悔する。
瞼の奥に浮かぶ、フワフワの白いタオルを持ち笑いかけるひまりの姿。
ギリッと、唇に痛いほど歯を立てた。