第96章 夏の大三角(5)
『雑巾掛け対決』
ルールはごくシンプル。
手で雑巾掛けをしながらゴールを目指し、早く着いた者が勝者。
てかてかと黒光りした、縁側。
城内の木造の長い廊下。
一直線百メートル。
まだ建てられてから間もない山荘という名の、小城。
埃一つ見当たらないこの廊下を、何故掃除する必要が?
心でそう叫ぶ中、
「女子は一往復。男子は十往復。途中で諦めた者は……覚悟しておけ」
筋肉と精神力トレーニングという名目で信長の監視の元。十往復という鬼のような雑巾掛けダッシュを既に終えた男子部員数名。
その強烈な腕と足の筋肉疲労に耐えれず、その場に伸びる中。
異様な雰囲気を感じ取り、ヒッ!と短い悲鳴を上げ、雑巾片手に現れた二人にその場を譲る。
肩を軽く鳴らしながら、現れた家康。
雑巾に真剣な眼差しを向けた、三成。
(何か、凄い張り切ってない?)
二人とも雑巾掛け、好きなのかな?
張り切る理由になっているひまりは、事情など知らない。少し前に、雑巾掛け一往復を終え……
女子部員と一緒になって二人を見守る。
「あれは、何か裏があるわね」
「予想はつきますけどね〜」
副部長と弓乃にニヤニヤと視線を
向けられ、ひまりははてなマークを
浮かべコクッと横に頭を下げた。
まさか、この勝負が今夜行われる……
肝試し大会のペアを賭けた、
熱き戦いとも知らずに……