第96章 夏の大三角(5)
太陽がさんさんと降り注ぐ中。
バスが止まったのは、緑の木々が囲み小鳥の囀り、蝉の鳴き声、生い茂った草木、ひんやりとした空気……自然が溢れかえった場所だった。
そしてそのど真ん中に、どうしても視界に入ってしまう大きな建物。
私は荷物を肩から降ろし、無意識に隣に立つ家康の肩を叩いていた。
だって、去年と全然違ったから。
口をぽかーんと開く私とは違って、家康は至って冷静な声で、
「突っ込みどころ満載だけど。あえて、俺は触れない」
「触れてよ!だ、だって、これどう見てもお城だよ!?」
「セレブ顧問の頭の中なんて、興味ない」
「ちょ!ちょっと、待ってよーっ!」
頭を軽く振り、私の分の荷物を抱えて家康は歩き出す。自分で持つから!鞄を引っ張り合いながら、門を潜ると……
痺れを切らした部員の人が、
「何ですか!この建物は!?」
皆んなの疑問を代表に、突っ込んでくれた。織田先生は鼻を鳴らしながら、私達の方に身体を向き直り、
「雰囲気作りに協力してやった。感謝しろ」
安土城を似せてみた。
そう言って、ニヤリと笑った。
私は仰向いて改めて、見つめる。
二階建てのお城。
確かに観光地になっているようなお城に比べると、二分の一スケール。先生は、一番上に見える天守に自分は寝泊まりする宣言をした後、
「まずは、廊下磨きからだ。全員、胴着に着替え中庭に集合しろ」
こうして私達の鬼?合宿は始まった。
「なぁ。これいくらあれば建つんだ?」
政宗は、そこが一番知りたいみたい。
「道場も完備してあるからな」
明智先生は事の成り行きを熟知。
「織田先生らしいじゃないか」
秀吉先輩はあくまでも織田先生を崇拝。
「……家康先輩。どうやら、一本目は雑巾掛けのようですね」
「……初日は肝試し。絶対、外せない」
「「いざ!!」」
家康と三成くんが火花を散らす中。
私は、
やっぱり城主は織田信長の先生になるのかな??
新たな歴史が生まれる瞬間を、一人で噛み締めていた。