第96章 夏の大三角(5)
戦国学園から走り出した、
一台の大型バス。
その中に弓道部員。
男女合わせて三年が九人、
二年が十一人、一年が十人。
顧問、副顧問合わせ……
約三十人余が乗り込んでいた。
戦国学園の弓道部は毎年優秀な成績を収め、全国大会にも必ず名を残す強豪校で有名。
三年のエース秀吉筆頭に、二年エース
の、家康。そして、一年エースの三成。既に団体戦では一番の優勝候補として名が上がっている。
そんな部員達が行う、強化合宿。
まさに、鬼退治のように過酷な三日間。
それを知らないのは、
初参戦の一年のみ。
三年と二年は去年の合宿を思い出し、青い顔やふて寝する者、挙句に身を震わせ頭を抱える者も少なからずいた。
しかし、
「良かったら、お菓子どうですか?」
花のようにふわりと笑い、蜜のごとく甘い香りを全身に纏いながら、鈴音のような声でポッキーを差し出すひまり。
浮かない表情をしていた男子部員は、それだけで天にも昇る気分に。
この弓道部の唯一の謎。
どうしてこの姫に、彼氏がいないのか。
誰しも一度はそう思い、暫くして誰しもがその理由となる根源を理解していた。
だからこそ、
想いを寄せても決して叶わぬと……
天女のような存在なのだと……