第96章 夏の大三角(5)
「運動神経は良いみたいだね」
「さ、佐助くん!」
口をパクパクさせ、
決して声には出さず……
何でここに!何でこんな朝早く!
どうやって!いつから!
って叫びたいけど、それは佐助くんにはご法度。神出鬼没はいつもの事だと思い、私はとりあえずベットから降りた。
どうしてここに?
言わなくても佐助くんには不思議と伝わり、普通の会話をするように、淡々と話を始め……
「……君を巡る戦い。まさに戦国時代の領土を奪い合う戦いだ」
話の意図が全くわからない。
私を巡る戦い?誰が??
けど、いつも惚けた佐助くんは其処に居なくて至って真面目な表情。
私はそんな彼の前に、ちょこんと正座して耳を傾けると……
「かつて石碑の下に……あるモノが埋まっていた」
(石碑って。学園の??)
「それを発見したのは、俺の父であり大学の歴史研究院。そしてソレを届けた……六人の元にね」
(へ?ソレ??)
佐助くんはそう話した後、眼鏡をクッと持ち上げてキランッ!フレームを光らせ、突拍子もなく
「さぁ!合宿が君を待っている!ぜひ、夜の女子トークはしっかりと聞いて君の胸の中にある、気持ちをじわじわと焦ったく頑張ってくれ!」
いつものおチャラけな台詞を残して、部屋の窓を開け……脚をかけた。私はその姿を見て、慌てて手を伸ばすけど……
「え!?佐助くんここ二階だよ!!」
その言葉が言い終わる前に、佐助くんは姿を消した。と、言うか飛び降りた?って言った方が正しいかもしれない。
そして部屋の中に熱い夏の風が、
むわんと入り込んだ。
巡る戦い?
六人に届けた?
一体何の話??
謎が謎を呼んで、
私の頭がパンパンになる。
チリンッ……。
窓にぶら下げた風鈴の音だけが、心を少し落ち着かせてくれた。