第95章 夏の大三角(4)
怖くて涙が出そうになった時。
身体がふあっと軽く浮いて、
「汚い手で、触んないでくれる?俺の彼女に」
背中から前に向かって回された……
Tシャツの袖からスラリと伸びて、でもしっかりと固く締まった腕。
「ちょっと、待たせてただけなんで」
ドスが効いていて、
その上威嚇したような強い声。
これは、家康が怒ってる証拠。
(彼女って……何で…そ、んな嘘)
「チッ。ガキが偉そうに」
「そんな待たせるような彼氏、やめといた方がいいよ〜?」
「俺らが代わりに遊んでやるから、引っ込んでろよ!」
チッ。今度は家康の舌打ちがすぐ近くで聞こえる。そっか。彼女って言えば諦めると思って……
私は掴まれた腕を振り払い、
ぎゅっと家康の胸にしがみ付く。
すると、
「そういうこと」
私に言ったのか、
男の人に達に向けたのかはわからない。
けど、声は優しかった。
「ラブラブってわけかよ」
「……行こうぜ」
男の人達が居なくなったのを見て、
家康から少し身体を離して、俯く。
「三成は?」
「ほ、本屋さんに行ってて……」
彼氏のフリをして助けてくれたお礼を言う。
何でここに?
そう続けて聞こうとした時。
「もし、俺が……ひまりの彼氏だったら」
家康は片腕で私を包んだまま、スラリとした指と大きな手で顎を持ち上げて……
「大事な彼女。絶対他の男なんて、触れさせない」
切なげに睫毛が揺れる中、 翡翠色の瞳の奥は強く何かを訴えるように私を映す。
綺麗だけじゃない。
何かを求める光がそこにある気がして……
私の中で熱い何かが弾けだす。
高鳴った胸から感情が溢れ出して止まらない。