第94章 夏の大三角(3)
薄暗い館内。
扉を開けると、甘いキャラメルの匂いが中で溢れていた。
映画館の定番、ポップコーン。
私が手に持っているのは、普通の塩バター味。キャラメル味か一瞬悩みつつ、三成くんと食べるならこっちの味の方が良いかと思って選んだ。
どうしても、チケット代受け取って貰えなくてせめてコレだけはと頼み、買った物。
青春恋愛映画の所為か、若いカップルが多くて、甘い香りは甘い雰囲気と混ざり合い、余計にキャラメルの匂いが……敏感に感じたのかもしれない。
夏休みの休日、話題の人気映画だけあって上映十分前にも関わらず、もう既に沢山の人が座る中、三成くんは私の足元気にかけてくれながら、
「此方の席の方、どうぞ」
三成くんは前座席にいる人の背丈を見て、少しでも私が見やすい方の席に案内してくれた。
私は右隣のふかふかのシートに腰を下ろす。
「三成くん、肘付きにくいといけないからポップコーン持ってるね。好きに食べてね」
「……ありがとうございます。先輩は本当に優しくてその上、気が利く女性ですね」
「そんな事ないよ?前にこうやってて、うっかりポップコーン溢しちゃって、家康に怒られたし」
「家康先輩にですか?」
「うん。まぁ、でも中身ほとんど食べてたから、大惨事にはならなかったけどね?」
私はその時の事を思い出しながら、ポップコーンを頬張った。
ーーきゃあ!
ーーばか。だから、置いておきなって言ったのに。
ーーだって…。家康、いつも肘掛に寄りかかるし邪魔かなと思って。
ーーあのね。そんな気が利くような事言えるなら、もうちょっと男心勉強してくれる?
怒ったと言うより、
何か拗ねてた感じだったけどね?
私が小声で、そう話すと……
三成くんはポップコーンの箱をヒョイと奪い、肘掛のポケットに置く。
「……それだと、手が繋げませんから」
え??
左手に温かいぬくもりを感じた時、スピーカーから大きな音が流れ……。
上映開始のベルが鳴った。