第91章 『一ヶ月記念作品』時を越えるルージュ
何処かで買って来たのか、床の上に苺がたくさん乗ったクリスマスケーキが置かれるのを見て、私は隣にスタンバイする家康に話しかける。
「ねぇ?ケーキ何に使うのかな?」
「……食べるらしい」
「えっ!食べていいの?」
ちょっと疲れが出て来て、
ちょうど糖分が欲しかった所。
私は編集長さんに呼ばれ、家康と軽い足取りでセットの中に入る。
皆んなは一足先に着替えに行ったみたいで、スタジオにはいなかった。
「二人には色々と絡んで貰うからね」
編集長さんは、カメラも意識しなくて良いから好きなようにして欲しいと言われ、
「何か、逆に難しいね」
「……細かく、注文付けられる方が面倒だし」
とりあえずケーキを食べるように言われ、私達は向かい合いながら座った。
「恋人同士と過ごすクリスマスをイメージして自然な感じで!」
何か疑似体験みたい。
幼馴染の家康とは、何度かクリスマスは過ごしたけど、恋人同士でなんて……。
(やっぱり幼馴染とは違う雰囲気になるのかな?)
ケーキに視線を落とした私は、ある事に気がつく。食べたくても、フォークがない。
「フォークなしで、どうやって食べたら……」
疑問をポツリ呟くと、家康は躊躇なく上に乗った苺を指で掴み……
「こうやって食べるってこと」
苺を私の唇にチョンと付ける。
「へ///う、嘘!む、無理だよ!」
「恋人同士の定番。早く口開けて」
「いいねぇ。二人とも〜〜」
カメラマンさんがシャッターを押しながら、親指をグッと立てるのが見えた。
ほらね?と言うように家康が、口角を上げて笑うのを見て恥ずかしい気持ちより、悔しい気持ちが珍しく私の中で上回って……
(うぅ……ケーキ食べたいし)
チラッと苺を見る。
真っ赤で生クリームが少し付いてて、美味しいそう。
今は恋人同士と言い聞かせ
パクっ。口を開けて食べた。