第91章 『一ヶ月記念作品』時を越えるルージュ
再び撮影が始まる。
今度はクリスマス雰囲気全開でとお願いされ、政宗がツリーの前で背後から私を抱き締め、差し出されたローズピンクのルージュを私が口付けするカット。
(人前じゃなくても恥ずかしいのに……)
今まで此処まで密着する撮影なかった。スタッフさんや皆んなの視線が、注がれ……
「喧嘩して仲直りするようなイメージで!!涙なんか出して貰えると!!」
無理だよ……。
ドキドキしてそれどころじゃない。
私はぎゅっと政宗の腕を掴むと、
「恥ずかしくてなら、泣けるんじゃねえか?」
「からかわないでよ。急になんて……私、演技力ないし……」
「なら、俺が泣かせてやる」
どうやって?
そう思った時。
「……悪い。お前への想いずっと隠してた。泣かせるつもりじゃなかった」
「ま、政宗??」
「付き合ってやってんだ。感情移入しろ」
政宗が演技なんて意外。
そう思いながら、耳を集中させる。
「何が何でも、あいつに取られたくねえ」
何でそんな悲しそうな声。
「一年の頃は、ただお前の笑顔がまぶしく見えて……それを見てるだけで良かったんだ」
一年の頃?
「正直今は、眩しいの通り越して……参ってる」
政宗の切実な想いが、伝わってくる。
「それぐらいお前の笑顔は、大事なんだよ。必ず守ってやる。俺が必ず……だから、泣くな」
「ま、さむね……」
そっと引き寄せられる身体。
後ろからルージュを口にあてられ……。
その言葉の中に政宗の優しさが、いっぱい込められている。そんな風に感じて。
なのに何でだろう……
すっごく嬉しいのに、今は
その気持ちを受け止めれない。
そんな風に感情が移入をしてしまい、
無性に悲しい気持ちになって……
涙が浮かび、
瞬きをした瞬間。
ゆっくり頬に流れた。
カメラマンさんと編集長さんに絶賛され、残すは家康との撮影だけになった。