第90章 夏の大三角〜開幕〜
職員室から出る頃。
消えた人影。
もう誰も校内に残っていないのかな?
そう思えるぐらい、辺りは静かだった。
でも、今日は合宿の打ち合わせがあるし道場に行けば皆んながいる。まだ時間はあるけど、全員が集まれば早く始めれるかもしれない。
(急いだ方が良いかも!)
シーンと静まり返った廊下。
ペタペタと教室に向かって、
走っていると……
階段付近に人影がちらほら。
(何だろう?女子生徒がいっぱい……)
何となく気まずい雰囲気を感じ、角に身を潜め様子を伺う。あの階段を上らないと、教室に戻れない。
「……大切にしたい子。やっと見つけたんだ……だからもう、こういう事しないでくれ」
(秀吉先輩の声……)
って事は……
「でも戦国プリンス様は皆んなの!憧れで!」
ファンクラブの子達?
何か揉めてるみたいだけど。
「抱き合ったのは、劇の演技の為だ。いちいちそんな事で、責めないであげてくれ」
「わ、私達は別に何も!ただ、嬉しそうに自慢してたからちょっと注意しただけで!」
(あのお姫様役の子と、何かあったのかな?)
秀吉先輩のファンクラブの人達は、良い人が多いって前にゆっちゃんから聞いた。抜け駆けなしで、皆んなちゃんとルールを守って活動してるから、揉め事が少ないって。
「もしかして、大切な子って今日のお姫様役の子なんですか!?」
今にも泣き出しそうな声。
他の子達も続くように、次々と声を上げている。
どうしよう。
コソコソするのも悪いし、
でもこんな状況で今更出て行くのも……
部長の秀吉先輩がいるって事は、
打ち合わせはまだ始まっては、ないとは思うけど。
(う〜〜ん……)
一人でオドオドして、悩んでいた時だった。
「俺の大切な子は今日のお姫様役の子じゃない」
一度お姫様役の練習相手を頼んだ子だ。
その言葉を聞いた瞬間……
呼吸を忘れる。
え……
それって……。