第89章 『妄想未来の甘い苺味』※R18
「ひまり。足元滑るといけないから」
はい。
差し出された手。
それを取るよりも先に、私は……
「家康……っ!」
ぎゅっと胸にしがみ付いた。
「……珍しい。いつもは」
家康はそこで言葉を区切って、
(普段は人前でしないって言いたいんだよね……)
恥ずかしがって。
わかってる。
自分でもびっくりしてるから。
「まぁ。俺は、嬉しいから良いけど」
家康は傘を肩に乗せ中棒を挟み込みながら、私の身体に両腕を回す。
女の人達の顔を見る勇気はなくて、どんな表情をしているのかわからない。でも、何となく気配と視線は感じるから……
きっと唖然とした様子で。
私達を見てる気がした。
キスしたい。
どうしたんだろう。
本当に今日の私……おかしい。
決して口には出せない。
でも、自分で自覚がなくても、もしかしたらそんな表情で家康を見上げたのかもしれない。
だから、
「………っ」
家康は車のドアに私の背中を預け、
ザァッーザァッー……
けたたましく降り出した雨に負けないくらい、激しいキスを私に降らせる。
傘が地面に落ちても……
「ぁっ………」
髪から大量の雫が落ちても……
「……い、えや……っ」
見られてるのに。
高めのヒールを履いてるから、いつもは首元にしか絡ませれない腕が……座ってキスする時みたいに、家康の後頭部まで届く。
時々、唇が離れて……
目線が熱いほど絡まって……
家康の瞳に、私しか写っていない。
それが一番嬉しい。
また、お互い食べ合うみたい飽きることなく唇を重ねた後。
「今夜は帰さないから……」
私は返事をする代わりに、上がった息を止めることなく、頷いた。
びしょ濡れになった服。
家康は、
崩れ落ちる私を助手席に乗せて……
ある、マンションの駐車場に車を停めた。
後半へ……