第88章 『二つの夢物語』
街中の膨大な敷地に建つ、大きな病院。
外来の受付が終わり、入院施設の方にしか明かりはなくロビーの自動扉は完全に閉まり、非常用の赤い灯りが一つ二つ見えただけで、中は真っ暗だった。
ポツリポツリ降っていた雨が、
本格的に降り出す。
コンクリートがあっという間に雨で濡れていくのを見て、不思議と私の目元も涙が濡らし……
(何やってるんだろう、私……)
一日ヒールで歩き疲れた足。
限界がきたみたいに、
膝を抱えその場にしゃがみ込んだ。
紙袋の中身を手の感触で、
割れていないか確認する。
瞬きをすると生暖かい粒が静かに流れ、頬から顎に伝い……
足元に落ちた。
マリッジブルーなんて、
私には無縁だと
思ってたのにな……。
帰ろう。
ちょうどそう思った時。病院の前に市バスが停まり、途方に暮れていた私はおぼつかない足取りで近づき、乗り込もうと足を持ち上げる……
一段ステップに片足をつけた
その時だった。
「ひまり!!」
身体がふわりと浮く。
ピシャー……
扉が目の前で閉まり
一人も乗客がないまま
バスは発車した。