第88章 『二つの夢物語』
電車を降りて暫く道なりに歩くと、秀吉先輩のお家。
神社が見えてくる。
私は、鳥居の前で一礼して参道を歩き
一番奥にある本殿に向かう。ご祈祷中とかだったら遠慮しないと。そう思いながらお目当の建物が見えてきた頃、
「ひまり!」
「秀吉先輩!」
外で清掃中だった所を見つけた。
私は鞄の取っ手を片方だけ外し、チャックを開けると中から書類の入った茶封筒を出して、先輩に渡す。
「お願いします!」
私はペコッと頭を下げる。
「あぁ。わざわざありがとな」
「先輩は、忙しいんですから気にしないで下さい!」
「誰かさんの所為で、大忙しだ本当に」
口でそう言いながらも、表情は柔らかくて優しい先輩。ごめんなさいと謝ると、嘘だよ。と言って頭を撫でてくれて……高校生の時から変わらないぬくもり。
「それより、顔色悪くないか?無理してないか?休んでるか?」
「ふふっ!先輩、過保護過ぎですよ?もう、大人なんですから!」
「お前は、いつまでも高校生みたいだよ」
先輩は、私の鼻を軽く摘み……
「可愛いまんまだ」
一瞬ドキッとするぐらい、甘い笑顔を向けてくれた。
先輩と段取りを軽く確認し、
「いけない!もう、こんな時間!」
「俺も祈祷の時間だ。詳しい話は、また電話で聞くから」
無理するなよ。先輩の温かい気持ちに触れ、頭痛の方は大分良くなっていた。
私はヒールで転ばないように気をつけ、ある場所へと大急ぎで向かう。
神社から早歩きで十分。
広い庭園がある式場が見えてくる。
白い教会のチャペル。
その横にある式場に入り、自動ドアが開くのさえ待っていられないぐらい。
私は急いで足を踏み入れると、打ち合わせルームに飛び込んだ。
「す、すいません!」
「あれ?新婦様お一人ですか?」
私は担当者さんに、新郎の方は仕事で来れなくなった事を伝え……
ちょっと、寂しいと思いつつ打ち合わせを始めた。