第88章 『二つの夢物語』
切符を買い、改札口を通ろうとした時。自分の名前を呼ぶ声が何処かから聞こえてきて、辺りを見回す。
すると、
トントン。
後ろから肩を叩かれ、振り返ると……
「三成君!?」
どうして此処に?
驚く私に、
スーツ姿の三成君はニッコリ笑って……
「今から、急遽クライアントの所に向かう所なんです。ひまりさんにお逢い出来て良かった」
「私も!まさかこんな所で逢えるなんて!ふふっ」
「少し顔色が優れないようですが?大丈夫ですか?」
三成君は心配そうに私の顔を覗き込み、少し青いようですが。と珍しく眉を顰めた。
そんなに、顔色悪いのかな?
今朝、お母さんにも言われた事を思い出す。でも、変に心配を掛けたくなくて私は大丈夫だと笑う。
「三成君こそ!仕事忙しいみたいだけど、大丈夫?」
「はい。大事な日に体調崩してはいけないと思い。今は心掛けています」
最近は、
休日を返上して仕事をしている三成君。
放っておくと、すぐに睡眠や食事を摂るのを忘れがちだから。私は、念を押すように体調管理だけは、しっかりしてね!と伝える。
「では、また電話します」
「うん!お仕事、頑張ってね!」
三成君は、眼鏡のツル端を指で挟み軽く持ち上げ……忙しく私が乗る電車とは別の改札口に入って行く。
(やっぱり、顔色悪いのかな?)
電車に乗り、
私は鞄からポーチをスッと取り出し、その中に仕舞っていた鏡で自分の顔を映す。
確かに言われてみれば、青白い。
やっぱりクーラー浴びたからかな。
う〜〜ん……。
この時間帯の電車は空いていて、ゆったり座れるから好き。私はお腹の上でぎゅっと鞄を抱き締める。
揺れる電車。
心地良いような、
良くないような……。
三駅しかない電車移動。
コクコクとしながら、
寝ないように気をつけ、
落ちそうな瞼を必死に持ち上げた。