第88章 『二つの夢物語』
頭が痛い。
気分もいまいちだし……。
病院行った方がいいのかな?
悩みながら、携帯一件メールを見てむくりと体を起こす。
内容は、
急遽仕事が入って、打ち合わせが行けなくなった。と、言うお詫びのメール。
はぁ。
(残念……)
ますます重くなる頭。
忙しいのに無理は言えないよね。
フラフラと立ち上がり、
「くまたん。おはよ」
小さい頃から大事にしている縫いぐるみに、挨拶をしてから私は着替えを引っ張り出した。鞄にメイク道具と手帳、財布、最後に書類を抱え部屋から出る。
「お母さん。頭痛の薬ある?」
「どうしたの!?顔色悪いわよ!」
キッチンにいたお母さんはエプロンで手を拭き、駆けつけるなり私のおデコに手を当てた。
もう、成人を迎えてる私。
思わず母に、もう子供じゃないんだから。と、苦笑いしながらリビングにある薬箱をあさる。
(切れてる……)
仕方ない。
さっき、打ち合わせ終わったらゆっちゃんとランチ行く約束したから……。その帰りに薬局寄ろうかな?
病院に行く程、酷いわけでもないしね。
「家康君の病院。行ってきたら?」
「今の所は大丈夫だから。様子見て、考えるね!」
私は携帯で打ち合わせ時間を確認して、家から出ると……
赤い新車の高級車が、停まっていた。
「織田先生!どうしたんですか?」
驚いて駆け寄ると運転席の窓が開いて、
「貴様。いつ迄、その呼び名で呼ぶつもりだ?」
「す、すいません!つい……えっと、信長さん?」
全然慣れてないから、ちょっと恥ずかしい。赤くなりそうな顔を手で隠すと、
「恥じらう可愛さは、変わらんな。仕事に向かう道中。少し、貴様の顔を見にきただけだ」
「わざわざ、ありがとうございます!」
私がぺこりと頭を下げれば、信長さんはサングラスを外しフッ。と、笑う。手を軽く上げハンドルを握ると、アクセルを踏み学校の方角へと走らせた。
仕事前。
わざわざ来てくれた事が嬉しくて、見えなくなるまで手を振る。
(まだ、時間に余裕あるから政宗の所に寄って行こうかな?)
少し、足取りが軽くなった気がした。