第88章 『二つの夢物語』
ーー昼休み。
私は、家康が廊下に出て行くのを確認した後、席を立ちゆっちゃんと政宗に向って手招きする。
教室の隅にコソコソと二人を呼び……
三人で一つの輪になると、
「じゃーん!!」
昨夜、アルバムから取り出した一枚の写真。二人はソレを食い入るように見て、お腹を抱えながら笑い出した。
「何!めっちゃ可愛いし!これなら、女の子と間違われるのも納得!」
ゆっちゃんは絶賛しながら、頷く。
「まぁ。お前の方が断然、可愛いけどな」
政宗は手から写真を取り上げ、写っている小さい頃の私と、今の私を見比べる。
「で?何でこんな事になったんだ?」
「ふふっ。この写真には、家康の優しさがいっぱい詰まってるんだよ!」
「えぇ〜〜っ。徳川が?」
この時は、何にも知らなかった私。
大きくなってからこの写真を見て、おばちゃんに理由を聞いた。
ーー難しい手術を控えてた患者さんが、このワンピースを仕立ててくれてね。
何でも手術前の検査入院中に、病院で私達を見かけたおばあさん。庭先で遊ぶ私と家康の姿を、海外に住むお孫さんの小さい頃の姿と重ねたみたいで……
ーー難しい手術前に不安になって、色々と気を病んでいたみたいで……
元々洋裁の仕事をしていたおばあさんは、一旦退院して手術の日を待つ間……
気を紛らわせる為にワンピースを私達に仕立ててくれたらしい。
おばちゃんは、まさか家康のことを女の子と勘違いをしてるとは、思わなかったけどね。と、笑った。
ーーこのワンピースを着た写真を手術前に見せてあげたら、きっと喜んでくれるよって。元気になるよって。
おばちゃんがそう言うと家康は、
ーーこれ着たら。おばあさんの、病気治せる?
ーー身体の病気を治すのは、お医者さんの力が必要だけど。でも、写真を見て元気になれば、心の病気は治せるかもしれないよ?
立派なお医者さんになるには、どっちも大切なことだからね。
ーーわかった!そのかわり、すぐ脱ぐ!
しかめっ面で写ってるこの写真。
実は二枚目に撮ったもの。
一枚目に撮った、向日葵みたいに笑う家康が写っている方は、おばあさんの手元に届けられた。