第88章 『二つの夢物語』
二人は車の後部座席に乗り、シートベルト付ける。
ひまりは窓から外の景色を見て時折指をさし、家康に話しかけていた。
「いっちゃん!見て見て!夏祭りのかんばんでてる!」
「ひまり!ヨダレ垂れてる!」
「だってぇ〜かんばんの写真おいしそうなんだもん!」
ワクワクしながら、瞳をきらきら輝かせ小さな肩を揺らすひまり。
「今年も、いっしょに行こうね!」
「ひまり、すぐ迷子になるからなぁ」
「ならないもん!いっちゃんがちゃんと手繋いでくれたら!」
「わ、わかった///」
約束の指切りをしながら、二人は笑う。
「ちゃんと手繋いで、お姫様守らないとね〜」
家康の母親はミラー越しに、二人を微笑ましく見る。車内から、最近二人がテレビでハマっているアニメの音楽が流れ、三人で口ずさんでいる内に車はひまわり畑の前で停車した。
街から離れた、素朴な田舎道。
田んぼ一面に咲いたひまわり。
夏の強い日差しを浴び、それでも昨日降った雨のせいかピンと背筋を伸ばしたように、真っ直ぐと空に向かって伸びている。
「ひまりちゃん!このワンピースに着替えてくれる?」
家康の母親は紙袋から一枚のワンピースを取り出すと、一旦車内から家康を降ろす。
「わぁ!ひまわりのワンピース!」
「可愛い〜良く似合ってるね〜」
ひまりは、トンと爪先から車内を降りて嬉しそうに裾をヒラヒラさせた。
「ひまりちゃん〜今、家康と大事なお話するから、ちょっと待っててね!」
「はーい!」
ひまりは、車から少し離れ自分より遥かに背の高いひまわりを見上げる。
「やだよ!俺はゼッタイに着ないから!」
「一枚、写真撮ったらすぐに脱いで良いから!お願い〜」
「やだ!やだ!!」
家康の母親はう〜ん。と、頭を捻り……
幼稚園生に理解出来るか、不安だったが正直に事の成り行きを話すことにした。