第88章 『二つの夢物語』
ある夏の日のこと。
二人がまだ幼稚園に
通っていた頃の、休日。
徳川家にて。
「家康〜!ひまりちゃん!」
買い物から帰ってきた家康の母親は、二階の部屋に向かって叫び、後でリビングに来るように伝えた。
そして暫くすると、
「はーい!おばちゃんなぁに?」
徳川家に遊びに来ていたひまりは、
リビングにヒョッコリ顔出す。
大きなくりくり瞳。
ぷっくりとした頬。
近所では将来アイドルになるんじゃないかと、噂されるほど愛らしいひまり。
スキップしながら、
家康の母親の元に向かう。
「あれ?家康は?」
「なんかね!わるい予感がするから、やめとくって!」
「幼稚園生ながら我が子は鋭いわね〜」
家康の母親は持っていた紙袋をポンッと、床に置く。
「???」
ひまりは、不思議そうに首を傾けながら人差し指を頬につけた。家康の母親はやっぱり女の子は可愛いわね〜と言いながら、ひまりを膝の上に乗せ、
「髪の毛、結ってあげようか?」
「うん!あみあみするやつが良い〜」
ひまりは手をくるくると動かし、手につけていたヘアゴムを渡す。
「ひまりちゃん、編み込み好きだもんね〜」
家康の母親は、ゴムを口に挟み器用に柔らかい髪をカチューシャの様にして、編んでいく。
「はい!出来た!家康に見せて、お出かけするから降りてくるように、言ってきてね〜」
ひまりは、リビングの鏡の前で髪をチェックするとお礼と返事をする。
そしてパタパタと小走りしながら、家康の部屋へと戻って行く。