第83章 『七夕の織姫レシピ』
「な、なら……っ!短冊にそうお願いごと書くのはどうかな??」
可愛いお嫁さんが
見つかりますように?って。
私は、視線を逸らして笑顔を作った。
(何で、急に胸が苦しくなるんだろう)
家康の顔がまた、見れなくなる。
肩に掛けられたパーカー。
風で飛びそうになり、
慌てて手で押さえて視線を夜空に戻す。
すると……
「もう、見つけてるから」
大丈夫。
ぎゅっ……。
(私は全然、大丈夫じゃないよ)
何で、そんなこと……。
言いながら抱き締めるの?
苦しくなったり、
きゅんってなったり、
忙しくなる胸。
「家康///そ、そんなに寒くないからっ///」
「俺が寒いの。…ちょっとだけで良いから」
今日、ひまりは織姫だから。
一日限定の俺のお嫁さん。
何で……。
そんなのズルイよ。
「一生懸命、作ってんの。可愛かったし」
(いつもそんな台詞。絶対言わないのに)
天の川がゆらゆら揺れる。
キラキラ光りながら……。
「俺の為に手料理とか。やばいぐらい、嬉しかったし」
一年に一度しか逢えない織姫に、逢えなかった月日の愛を、彦星が囁き続けるように……。
「また、作ってよ。今度は二人っきりの時に」
家康は私の耳元で
甘い台詞を繰り返す。
夜風を浴びても全然寒くない。
逆に熱くなりすぎて、
溶けちゃいそうになる。
「ちゃんと、あの秘伝の調味料。忘れないでよ」
「あ、あれは///おばちゃんの教え通りに///べ、別に深い意味じゃないからね!///」
仕上げ前。
おばちゃんが、
ヒソヒソ話をするように……。
ーー大好きな家康に私の全部、食べて貰えますように。って、愛の調味料。入れてあげてね。
ーーえっ!?///
ーー私は毎日、その調味料入れてるから。徳川家の味には欠かせないのよ?
すっごい恥ずかしかったけど、
家康に美味しく食べて欲しかったから。
頑張って愛情を込めた。
「部屋の中に戻ったら、今日のレシピのおさらいしてよ」
「レシピのおさらい??」
メモはしっかり取ったけど。
「まずは、お出迎えのとこからやり直し」
一日限定、織姫レシピ。
ほぼ毎日逢っている彦星は
やっぱり意地悪だった。