第83章 『七夕の織姫レシピ』
引き続き、俺は二人の会話に集中する。
「そう言えば、家康の短冊の願いごと。今まで、一度も見たことない気がする」
「いつも、七夕まつり終わってからコッソリ書いてたのよ?毎年、同じことをね?」
明らかに俺に向けた母さんの言葉。
ピクリと反応する耳。
やばい。
ひまりに喋られたら、まずい。
(余計なこと言わないでよ)
俺は、聞いてないフリをし続ける。
内心は焦り、ゴホッゴホッ。と態とらしい咳をして、母さんを牽制した。
「何て、書いてあったんですか?」
「それは、後で本人に聞いてみてね」
(聞かれても絶対、教えないし)
「教えてくれるかなぁ〜?」
「ひまりちゃんが可愛く、お願いしたらきっと教えてくれるわよ〜ねぇ?」
「可愛いく??」
完全に、聞いてんのバレてる。
飽くまでもシラを切る俺。
ってか、やめてよね。
本気で可愛く聞かれたら……。
「例えば〜やだ!教えてくれるまで、帰らないから!とか、抱き着いて言ってみたらどうかな?」
「へ??///抱き着いて!?」
(そ、そんなのされたら///本気で帰せなくなるし!)
取っていたメモで赤くなった顔をパタパタする、ひまり。
俺も動揺して、鞄の中からペットボトルのお茶を取り出し一気に口に運ぶ。
「ほら、一回練習してみて♪」
「でも………///」
チラッとひまりの視線が動くのに気づいて、慌てて参考書に目線を落とす。
「大丈夫!あの子、参考書読んでる時は集中して全く聞こえてないから!」
(絶対、確信犯。やめて。そんなん言われたら、我慢できなくなるから)
後で、部屋に行ってからにして欲しいと必死に心の中で訴える……
けど、虚しく。
再び残り少ないお茶を、飲み干そうとした時……
「やだっ!教えてくれるまで、帰らないもん!絶対に離してあげないから!」
「ぐっ!!……」
……撃沈。
「家康!大丈夫!?」
(か、可愛い///駄々っ子ひまりとか///ギュってしたい!今すぐ、お姫様抱っこして、部屋に連れてきたい!)
「ゴホッゴホッ!」
苦しく咳き込みながら、
頭はそれでいっぱい。
めっちゃ、忙しいし。