第83章 『七夕の織姫レシピ』
扉を開けると、リビングの方から聞こえてくる賑やかな声。
玄関の靴を見て、
ひまりが来ているのがわかった。
「ただいま」
ボソッといつも通り呟いたつもりが、気持ちいつもより声が大きかった気がする。案の定、二人は話し声をピタリと止め、
「ひまりちゃん!お出迎えお願いね!ちゃんとやってね〜♡」
「ほ、本当にアレを!///」
「ほら、約束でしょ♡」
(アレって何?)
そんな話し声を耳にしながら、玄関で靴を脱ぎ始める。すると、何故かエプロン姿でひまりがやって来て、
「お、おかえりなさい///」
そう言って、もじもじしながら俺が持っていた鞄を胸に抱えると、とんでもない台詞を言い出した。
「えっと///まだ、ご飯出来てないんだけど……先にお風呂に入る?それとも……///」
その瞬間、俺は固まる。
(アレって!まさか!///)
エプロン姿でお出迎え!
ご飯とお風呂!それとも!
これは確実に、
(世間で定番の……///)
俺は、その先の台詞を先読みしてその場に崩れそうになる足を、必死に立たせる。
目線を泳がしながら、スリッパをキュッキュ動かして赤面するひまり。
「それと…も……///わ、わ…た///」
(男の憧れ新妻ごっこ!///)
早く言って!
速攻、部屋に連れてくから。
「わ、わた……///」
必死に震える声を出しながら、
チラッと上を向いたひまり。
やばい。
心臓止まるぐらい可愛い。
ゴクッ。
喉が自然に鳴る。
絶対、死んでも聞き逃せない。
そう思って全ての感覚を
耳一点に集中させた時……
「わ、わ……わぁっ…///……やっぱり、おばちゃん無理〜〜〜〜っ!」
ズルッ!
足の力が抜け、
その場に滑り落ちそうになる。
くるりと背を向け、
パタパタと走り去る後ろ姿。
散々、期待させといて……
それは無いし。
はぁ……。
ってか、何がしたかったの?
俺は頭を抱えながら、男心を弄ぶお姫様に続いてリビングに入った。