第80章 「白詰草の花嫁(10)家康様編」
(コレ……!三つ葉のヘアピン!)
何で、家康が持ってるの?
私は顔をまじまじと見つめると、家康はちょっと照れ臭そうに視線を横に向けて、
「言い伝えごっこは、一回したけど」
真っ直ぐ視線を戻す。
(言い伝えごっこ……って)
頭に引っかかったように、
私の記憶の何処かに確かにある。
ぼんやりして、
思い出せそうで、思い出せない。
「ひまりの全部が欲しい」
家康はヘアピンにキスを落として、
だから……
「俺だけのお姫様になって」
私の耳上にソレを差すと、
赤く染まった目元が、
少しだけ上にあがるのがわかった。
ーー俺のお姫様だから。
ぼんやりしていた記憶の断片。
一つだけ欠けらが、
剥がれ落ちたように……。
サァッ……。
生暖かい風が吹き付ける。
トクントクン……。
ドキドキとは違う、
別の音が鳴り出す。
「あの時、聞こえてたの?」
ーー来月まで売れ残ってますように!
ーー何一人でワゴンに喋ってんの?
家康は返事の代わりに、
ヘアピンに触れる。
もう、売れてしまったと思っていた。
三つ葉のヘアピン。
ソレが今、自分の髪に付いていて……。
「……遅くなったけど、看病してくれた時のお礼。ってか、買うのやばいぐらい恥ずかしかったし」
俺の努力。
無駄にしないでよ。
「うん!絶対!大事にするっ!ありがとう!」
もう嬉しいって言葉だけじゃ、
全然足りない。
そんな、プロポーズごっこ。