第80章 「白詰草の花嫁(10)家康様編」
ーー歴史のテスト終了。
私は一人、先生の元に運ばれていく自分のテスト用紙を、切ない気持ちで見送りながら……。
夏休み、織田先生の鬼補習を覚悟した。
「何、机に突っ伏してんだ?」
「採点前から、赤点を覚悟してるの」
「お前、ほんと歴史だけは苦手だからな」
俺は全部赤点覚悟してるけどな。軽く笑い声を上げながら、政宗は私の頭をわしゃわしゃと揉む。
(うぅ……他の先生は優しいからまだ良いけど……)
背筋が凍り付きそうになりながら、私は二限目と三限目のテストを受けた。
「ひまり、先行って待ってるから」
「うん!急いで、提出物置いてくるね!」
家康に返事をして、私はまだ、出せてなかった課題のノートを取り出す。そして同じく再提出になっている政宗と一緒に、職員室へと。
「一緒に仲良く補習受けてやるから」
政宗はそう言って、廊下を歩きながら私の頬をふにゃりと摘む。
「ひゃいひゃい。政宗そう言って、歴史はいつもギリギリセーフで免れてるけどね!」
「まぁ、出来ればあの有名な補習は受けたくないからな」
「私だって、別に受けたくて受けてるわけじゃ……。はぁ……」
織田先生の補習の厳しさは有名だから、いつも私おひとり様。
「今日は店が忙しくてよ」
「わかった!じゃあ、また明日ね!」
政宗と玄関で別れ、裏庭へと急ぐ。
何の用事かな?
行けばわかると思って、敢えて何も家康に聞かなかったけど。
行く直前になって、そわそわして何だか落ち着かない気分になる。
校舎から周り、裏庭に出て家康の居る石碑の方へ足を進め。
(朝の雨が嘘みたい)
カラッと乾いた芝生。
雨露一つ見当たらない。
石碑の前で寝そべる家康。
顔の上に医学書乗せて、新学期の春をつい思い出してしまう。
あの時は、ワサビに間違われて私の中でのファーストキス奪われちゃったけど。
(狸寝入りの可能性もあるから、用心しないとね)
クスクスと笑い声を堪え、私はゆっくり近づいた。