第79章 「白詰草の花嫁(9)家康様編」家康様side
予備校の休憩中、
携帯を開けば一件の受信メール。
差出人は幸村。
もうちょっと日本語勉強してくれる?とつい、突っ込みたくなる内容文。
『偶然、ひまりに会ってよ!なんか部長が気に入ってよ!何かやばそうだから、メールしといてやった!感謝しろよ!』
(何なの。ほんとに……)
壁に掛けられた時計の針。
まだ、6時30分。
あと、一時間はある。
『見張っといて。早く終わらせて、迎えに行く』
幸村が居なかったら、確実にこのままサボってた所。ポケットに携帯を仕舞う。するとカサリと音が鳴り、小さな紙封筒が手の感触で伝わる。
(すっかり、渡すタイミング逃してた)
折角だし。
あの場所で渡したくて。
明日の天気予報を調べる。
午前中についた雨雲。
午後には晴れに変わっていた。
俺は、提出物を急いで終わらせて幸村に電話を掛ける。
「今、弓具屋出てよ。駅に向かって歩いてる所だ」
「……部長って、上杉謙信だよね」
大会の記憶を辿ると、嫌でも出てきた。俺は、自然と早歩きになり、
「何か、一目惚れつーやつ?イキナリ口説きだしてよ」
「……っとに、他校まで。今、向かってる。もうすぐ着く」
「早く来いよ!さっき番号教えろとか言って………やべっ!?」
幸村の最後の大声が携帯越しじゃなく、直接耳に届く。俺は肩にかけていた鞄を幸村に渡し……。
「いやっ……!」
ほんとに目を離すとすぐ……。
困らせないでくれる?
「俺のひまりに、触んないでくれる?」
顎を掴んだ手を、振り払い。
間に入ると、目の前の男を睨みつける。
どの口が言ってんの?って、自分が一番言いたいかも。
「家康……っ!!」
怖がるぐらいなら、初対面相手に無駄に愛想振りまかないでくれる?
ぎゅっと背中越しに、掴まれた手。
(小さい頃から、ほんと変わってないし)
変に気が強くて、なのに泣き虫で。
喜怒哀楽は激しいし、自覚はないし。
「邪魔をするな。お前とその女……ただの幼馴染だと聞いた」
(っ……!)
その言葉に、喉が詰まる。