第78章 「白詰草の花嫁(8)家康様編」
雑貨屋さんのワゴンの中。
一点物だった、三つ葉のヘアピンは売れてしまったみたいで……四葉のヘアピンの隣から姿を消していた。
(売れちゃった……)
「何かわかんねえけど。そう、落ち込むな」
私がガックリ肩を落とすと、幸は慰めるように頭を軽く叩いた。こっちのにしとけば良いじゃねえか?と四葉の方を指差され、首を振る。
「三つ葉の方が可愛くて……テスト頑張って、お小遣いアップお願いしようと思ってたんだけど」
残念。私はくるりと背を向け、二人に付き合ってくれたお礼だけ言うと、駅に向かって歩き出す。
するとグイッ、と後ろから手を引かれ……。
「こっちの用事も付き合え」
「え!?……ちょ、ちょっと引っ張らないで下さい〜〜〜っ!」
「お前。厄介な人に気に入られたな」
「私、テスト勉強がぁ〜〜っ!」
幸に助けを求める。
けど、肩を竦めて言い出したら聞かないから諦めろと憐れむような、声で言われ……。私は半ば引きずられながら、弓具屋さんに連れて行かれた。
(うわぁーっん!!明日、歴史のテストなのに〜〜っ!)
私は二人が弦を選ぶ間、中で待たされ……。折角なので、重量ごとに並んでいる弓を順番に持ち上げてみる。
今の弓よりも少し重い弓。ほんの僅かな違い。でも確かに、腕に掛かる負担が増え、自分の身体に合っていないのがわかった。
(やっぱり、無理して変えない方が良いかも)
夏休み中の課題。
腕力が上がるように、筋トレしないとね。
店内を見て回る内に、二人の買い物が終わる。
「徳川には負けたくねえからな。本腰入れて、練習に励むとするか!」
「ふふっ。家康も大分、今年は気合いが入ってるみたいだよ!」
「……徳川?徳川家康のことか?」
謙信さんは何度か大会に出ているから、家康を知ってるみたいで。私が幼馴染なんですと、歩きながら答える。すると、また話を戻して
「俺の女になったんだ。電話番号、教えろ」
「へ??い、いつそんな話に!?」
吹っ飛んだような声を上げる私。けど、謙信さんはそんな事は御構い無しで……ズボンのポケットから携帯を取り出したと思えば、早く番号を教えろと急かされた。