第76章 「白詰草の花嫁(6)秀吉様編」秀吉様side
道場に着き、
「まずは、構えてみろ」
とりあえず弓を持たせ、型を取るように指示をする。俺は後ろからひまりの肩と手に触れ、
「もっと、胸を開いて……肩はそれぐらいで良い」
「は、はい!」
(今日の射型は特に悪くないな)
前に腕をぶつけていた原因。恐らく、選手に選ばれたプレッシャーで、無駄に肩に力が入り、射型が崩れてたんだろうな。
「お前、あんまり腕力ないんだ。これ以上、弓の重量上げるなよ?」
「やっぱり、このままのが良いですか?買い換えようか悩んでて……」
家康にも、止めとけと言われたらしい。
無理すると今の射型が崩れる可能性がある。と言えば、ひまりは素直に頷いた。
(可愛いヤツだな、本当に)
入学当初は、妹みたいな感覚で接していたが……。今は……。
一旦、休憩し雑談をしていると、
「あっ!そう言えば、先輩!今度、特別出演で演劇部の王子様役やるって、聞きましたよ!!」
ひまりは目を輝かせながら、俺に顔を向ける。
「王子様と言うよりは、お殿様だな」
この前、終業式に披露したいからと、演劇部員に総出で頭を下げられ、出演を承諾したばかりだ。
「戦国時代のシンデレラ!題名聞いた時から、凄く楽しみで!」
「なら、後で練習に付き合えよ」
その代わり、家まで送ってやるから。そう言えば、
「え、演技とか!私、全然だめで……」
適当に、立っているだけで良いからと。俺が頼むと、少し間を開け、ひまりはわかりました。と少し照れくさそうに笑った。
どんな話何ですか?と聞かれ、俺が台本を取り行っている間に、外で待っていろと伝えた。
戦国時代のシンデレラ。
あらすじは一般的な話とそう、変わりない。ただ、衣装は着物で王子は殿様。灰かぶりの少女は貧しい村娘で、ガラスの靴はガラスの草履。
ただし、一つだけ大きく違う。ガラスの草履がピッタリ合った町娘に、殿様が庭先で求婚を申し出る場面が付け足されている。
しかも、その台詞は俺自身に考えて欲しいと頼まれていた。