第75章 「白詰草の花嫁(5)秀吉様編」
足の捻挫が治ったある日。
テスト期間の放課後のこと。
私は、織田先生に頼まれある箱を取りに、部室に向かう。
鍵を開け、道場に入る。
入り口に置かれた、ダンボール箱。
合宿について希望などが書かれた、部員のアンケート用紙が中に入ってて、持ち上げるとカサカサと音がした。
私もアンケートに、部員の結束力を高める練習方法が出来たら良いなぁ。と書いた覚えが。
(大会までに、皆んなピリピリ感が少しでも解れると良いんだけど)
緊張感はもちろん大切だとは思う。
でも、だからこそ部員で仲良く助け合ったり、笑い合ったりしたい。引退する三年生の先輩に、思い出が作れるような……そんな合宿になると良いなあ。
「何してるんだ?こんな所で」
「ひ、秀吉先輩!!」
肩を叩かれ振り返れば、秀吉先輩が胴着姿で立っていて……
「もしかして、自主練ですか?」
「テスト期間中でも、射型だけ稽古しておこうと思ってな」
秀吉先輩は夏の予選大会で秋季大会の出場権が取れたら、まだ引退するつもりはない事を話してくれた。
だからこそ、基礎をしっかり固めておきたいと。
「凄いですね!先輩のそういう所、本当に尊敬します!」
「まぁ、ある奴に負けたくないから。って、理由もあるけどな」
「ある奴??」
「家康だよ。俺、今回は個人競技しか出ないから」
「ふふっ。家康が聞いたら、きっと喜びますよ?」
何だかんだ言って、家康。先輩に憧れてるからと私が言うと、頭をくしゃくしゃに撫でられ、
「折角だ。見取り稽古つけてやる」
先輩は以前の約束を覚えてくれてたみたい。はい!と返事をして、私は着替えに向かう。