第72章 「白詰草の花嫁(2)光秀様編」光秀様side
「もう、来なくて良い」
お前の病は俺には、治せない。
俺は背を向けたまま、そう言い放つ。
すると、女は部屋から出て行った。
(さて、帰りが楽しみだ)
本気で病ませたい相手が、どうやら出来ていたらしい。
外の雨音に、
俺は耳をすます。
時計の針を見る。
当分止みそうにない雨。
口角が独りでに上がった。
部活、終了時間。
「……終わったか?」
「先生!?」
ビクッ。
姫宮は俺見るなり、怯えたように肩を鳴らし、隣に居た家康の傘の中に入ると、そのまま背中に隠れた。
わざわざ、道場まで迎えに来てやったと言うのに。
保健室の件で警戒してるのか?
「まさかひまりに、何かしたんですか?」
「何も俺はしていない。勘違いしているのではないか?」
「勘違い??」
俺を軽く睨みつける家康の背後から、ヒョコと顔を出した姫宮。
あれは、内診をしていただけだと伝えると。
「え!私はてっきり……///」
「てっきり、何だ?」
「な、何でもありません///」
単純なヤツだな本当に。
あっという間に警戒心を解き、気まずそうに笑いながら家康の背後から出てくる。
頬を軽く染めながら、ノックもせず扉を開けたことを詫びた。
「送り届けてやる。……乗れ」
「あ!はい!ありがとうございます!なら……家康と政宗も」
「残念だが、俺はお前しか送るつもりはない」
「え!?……わぁっ!」
姫宮の腕を掴み、助手席のドアを開け足が痛まないようそっと乗せる。
「……俺、ひまり家の二軒先ですけど?」
「足腰は大丈夫そうだからな」
大会前に鍛えておいた方が良いだろ?とニヤリと笑ってやると、家康はさぞ面白くなさそうに眉を顰めた。
「ひまりに、変な気起こさないで下さいよ」
(ガキの癖に口先だけは達者だな)
家康は助手席に乗った姫宮に、後ろの席に座るように指示を出す。そして移動したのを確認すると、
「何かあったら、すぐ電話して」
「う、うん??」
俺はそんなやり取りに、肩を竦めながら運転席に乗り込みエンジンをかけた。